植物スクラップブック 樹木篇

アイリス 採取作品 「赤い猫」
アヤメ科 Iris 採取場所 中央線沿線 「大林 郁邸」
特  徴 花は5月頃に咲き、花の色の豊富。日本には第二次大戦後に導入されたが、和名はつけられず、学名のまま呼ばれている。名前の由来はギリシア神話の虹の女神イリス。花言葉は使命。
作品での役割 宝石泥棒の話を聞いて、郁はその部屋に向かった。デスクの上には、アイリスが生けてある花瓶がのっている。
「この花はいつ生けたの?」
「昨日の午後です。」
家政婦は言った。
「水が少ないようだけど、どの位入っている。」
郁がそう言うので、多佳子は灰皿に花瓶の水をあけてみた。

細かなところも見逃さない郁の推理が抜群に冴えるのだ。
オニユリ 採取作品 「ねむい季節」
ユリ科 Lilium lancifolium thunb 採取場所 国立合成食品研究所
特  徴 オニユリは別名「テンガイユリ」と呼ぶ。寺院などで見られる天蓋を吊した様子に似ていることがその由来。球根は食用としたので、栽培の歴史は意外と古い。
作品での役割 「あの研究所の植物園に咲いているユリを、2〜3本持ってきてくださらない?」
より子が言った。
「研究所では、随分たくさんユリを栽培しているのね。それもオニユリばかり。」

この研究所では、ユリに炭酸ガスと水を与えて、澱粉を作るデータをとっています。
ガーベラ 採取作品 「弾丸は飛び出した」
キク科 Gerbera jamesonii 採取場所 世田谷区内 「尾形・藤川家」
特  徴 花は4〜10月と長い間咲く。原産は南アフリカ。名の由来はドイツの医者・T.Gerberによる。花言葉は神秘・崇高美。
作品での役割 尾形・藤川家に忍び込んだ仁木兄妹は、事件の手掛かりを得ることができた。そして、玄関で靴をはいていると、飾り棚に目が止まった。飾り棚には、白ユリが二本と一束のガーベラがうす青い花瓶に生けてあった。何の変哲も無い切り花だった。
「悦子、ちょっと待ってくれ。」

雄太郎には何がひらめいたのでしょうか。
桔梗 採取作品 「山峡の少女」
キキョウ科 Platycodon grandiflorum 採取場所 北関東の山峡の民宿「いしどう」
特  徴 秋の七草の一つとして知られるキキョウだが、実際は6月〜8月上旬に紫または白の美しい花を咲かせる。また、「万葉集」にでてくる「あさがお」はキキョウのことだといわれている。花言葉は「清楚」「気品」。
作品での役割 小説家・北見孝一郎は執筆中の作品を仕上げるため、山峡の民宿「いしどう」に滞在していた。そんな孝一郎の部屋へ毎日食事を運ぶ少女がいた。少女の名前は「真知子」。この宿の娘だった。孝一郎は真知子を見てこう思った。
「桔梗みたいな−いや、桔梗のつぼみみたいな子だ。」

どんな感じでしょうか。
純情可憐な少女といったところでしょうか。
キク  採取作品 「灯らない窓」「二つの陰画」「あかねを歌う」
キク科
Chrysanthemum morifolium Ramat.
採取場所 篠田家(『灯らない窓』)
世田谷区 アパート満寿美荘(『二つの陰画』)
出水八重子の墓(『あかねを歌う』)
特  徴 観賞用として広く栽植する多年草。花は秋に咲き、高さは1m程度。

また「菊人形」としては、横溝正史の『犬神家の一族』などで描かれている。
作品での役割 玄関へ行ってみると、立っていたのは隣の喜絵ちゃんだった。キクの花束を紙に包んで抱えている。
「進くん、この花お見舞い。元気出して。」
僕はそっけなく、キクの花を受け取った。
(『灯らない窓』)

均は菊はきらいなのだ。西洋草花の華やかさもないくせに水仙やりんどうような清楚さもない。それに一年中のさばっていて季節感もない。ところがゆかりときたらの花が好きで、均のアトリエに必ず菊を抱えてくる。
(『二つの陰画』)

八重子の墓には、白と黄のの束が薫っている。
(『あかねを歌う』)

一年中咲いているし、クセがない花なので
色々な場面で使われています。
クルマバハクマ 採取作品 「林の中の家」
キク科 Pertya rigidula 採取場所 S区K町 「水原啓太邸」
特  徴 葉は硬く、ふちに鋸歯がある。花は円錐状に10個ほどが、8〜9月ごろに咲く。

この草の名前は「クルマ」バハクマではなく、「クルマバ」ハクマです。
作品での役割 スイラン、ツルニンジン、メハジキ、クルマバハクマ、イワヘゴ・・・。
さえざえとした空気が流れ込んでくる10月のある夜、雄太郎は万年筆でカードに草の名前を書きこんでいた。そこへ一本の電話が・・・。

ここから雄太郎と悦子は事件の謎に挑むのだ。
コスモス 採取作品 「死の花の咲く家」
キク科 Cosmos bipinnatus cav. 採取場所 阿佐ヶ谷 「西片譲平邸」居間
特  徴 茎の高さは1〜2mで、直立に伸びます。 秋には6cmの花が咲き、色は白、深紅などがあります。
作品での役割 吉村駿作は田垣弘子と再会する。そこで弘子が現在祖父の遺産相続争いに巻き込まれている事をきき、
駿作は西片邸へ向かうことになった。西片邸では当主譲平の甥や姪たちが、あの手この手を使って、遺産を手に入れようとしていた。駿作が居間へ向かうとテレビの上にコスモスが飾られていることに気がつく。
「その花は源一郎さんが生けたんですよ。」

やはりコスモスの花が事件解決の糸口になる。
秋海棠 シュウカイドウ 採取作品 「タイトル不明」(未完の作品か?)
シュウカイドウ科 Begonia grandis 採取場所 鮎沢松治邸の庭先
特  徴 日陰の湿地などで見られる中国原産の多年草。花は秋に咲きます。
作品での役割 ピンク色という色は、とかく品がなくなりがちなのに露子はこの花の色がいとおしくてかわいらしく思った。

露子は日々の生活に憂いがあるのでしょうか。切なさを感じます。
白ハギ 採取作品 「林の中の家」
マメ科 Lespedeza 採取場所 S区K町 「達岡邸」
特  徴 ハギは秋の七草のひとつです。「万葉集」では、最も多く詠まれた花にもなっています。
作品での役割 玄関わきの白ハギのひとむらが、主人の死をいたむように、遅咲きの花をつけています。

とても寂しそうです。
スイラン 採取作品 「林の中の家」
キク科 Hieracium Krameri 採取場所 S区K町 「水原啓太邸」
特  徴 高さは50〜100センチほどで黄色い小さな花を咲かせる。日本では主に東海から西で多く見られる多年草です。
作品での役割 スイラン、ツルニンジン、メハジキ、クルマバハクマ、イワヘゴ・・・。
さえざえとした空気が流れ込んでくる10月のある夜、雄太郎は万年筆でカードに草の名前を書きこんでいた。そこへ一本の電話が・・・。

ここから雄太郎と悦子は事件の謎に挑むのだ。
チューリップ 採取作品 「縞模様のある手紙」
ユリ科 Tulipa gesneriana 採取場所 芹川政夫が入院する病室
特  徴 イランの原産。和名は「鬱金香」。スパイスやウコンのような香りがすることがその由来。
作品での役割 絹子が手にしたお見舞いの花束の包紙を取ると、チューリップの深紅と雪柳の白がぱっと拡がった。

一ぺんに春がきたという感じです。
ツルニンジン 採取作品 「林の中の家」
キキョウ科 Codonopsis lanceolata 採取場所 S区K町 「水原啓太邸」
特  徴 「つる」が伸びて、草に巻きつきながら育ち、朝鮮「にんじん」と似て根が太いため、この名がつきました。
作品での役割 スイラン、ツルニンジン、メハジキ、クルマバハクマ、イワヘゴ・・・。
さえざえとした空気が流れ込んでくる10月のある夜、雄太郎は万年筆でカードに草の名前を書きこんでいた。そこへ一本の電話が・・・。

ここから雄太郎と悦子は事件の謎に挑むのだ。
つるバラ 採取作品 「弾丸は飛び出した」
バラ科 Climbing Rose 採取場所 世田谷区内 「G.L.チェスマン邸」
特  徴 つる状に生えるバラの総称。一面に花を咲かせるため、立体感が出て美しい。樹高は4〜5mのものもあり、花の大きさもさまざま。
作品での役割 新緑の木立に包まれた、小ぎれいな西洋館なのだが、鉄線につるバラをからませた垣根も、円形の大きな花壇も、ろくに手入れがしていないらしく荒れて、住む人の性格の一端を示していた。

「鉄線に吊る『バラ』をからませた垣根」か、「鉄線に『つるバラ』をからませた垣根」か、迷いました。
トロロアオイ 採取作品 「黄色い花」
アオイ科 Hibischus menihot(L.)Medik 採取場所 世田谷区内 「数川八郎助邸」
特  徴 黄色い大型の花。晩夏に咲く。根の部分が粘っこい。根の粘液は和紙づくりに使う糊に使用する。また、切って花瓶にさしておくとすぐに枯れてしまう。
作品での役割 兄妹が留守番する水原家の隣宅で叫び声が聞こえた。その隣宅、数川家からかけだしてきた数川浩助とともに、 仁木兄妹が家の様子を見に行くと、奥にある広い洋間で、 数川八郎助の死体を発見した。 邸宅の周りを調べていた雄太郎は、トロロアオイの花をみつけ 花の説明を話し始めてしまい、悦子はあきれてしまったが・・・。

この書のタイトルの「黄色い花」はトロロアオイのこと。 事実、この花の特性が決め手となり、事件は解決の方向に向かっていきます。
ノボロギク 採取作品 「黄色い花」
キク科 Senecio vulgaris 採取場所 世田谷区内 「数川八郎助邸」沿いの道
特  徴 道端などに咲く雑草。一年中咲いている。光沢のあるギザギザの葉が特徴。名前の由来は「野に咲く襤褸菊」で、ボロギクとは花が集まって咲いているところが、ぼろきれの集まった状態を想像させるためとのこと。
作品での役割 数川邸でおこった殺人事件の現場に砧警部補がやってきた。砧が現場検証を行い、木戸から外へ出ると、雄太郎が砧に声をかけた。
「そら、吹っ飛んじまった」
どうやら雄太郎は道端のノボロギクを観察していたようで、ノボロギクの綿毛が飛んでしまったことに嘆いていたようだ。砧はついに雄太郎に癇癪をおこしてしまった。

しかし、そのことで事件解決への照準を絞ることができたのである。
葉鶏頭 ハゲイトウ 採取作品 「死の花の咲く家」
ヒユ科 Amarantus tricolor L 採取場所 「西片譲平邸」庭園
特  徴 一般にケイトウは花が美しいのだが、これは葉が美しいので「葉鶏頭」という。8月を過ぎると葉が色づきはじめ、秋には美しい濃紅色に変わる。花は秋に咲くが、こちらは緑色。花言葉は「気取り屋」「見栄っ張り」。
作品での役割 第一の殺人があった翌日、駿作はあてもなく、庭を散歩した。日当たりのいい花壇では、葉鶏頭が真っ赤だ。昨日のショックで、皆何も手につかない様子だが、普段は花壇の手入れもやっているのだろう。

悲劇のあとに一息落ち着く駿作。この後事件解決に向けて、動き出します。
バラ 採取作品 「青い風景画」「遮断機の下りる時」
バラ科 Rosa 採取場所 南伊豆 「城之浦亮太郎 別邸」 (『青い風景画』)
「長束賢宅」14階建てマンションの3階(『遮断機の下りる時』)
特  徴 品種改良が活発で種類も何百種類と増え、色もさまざま。愛好家の多い花のひとつです。
作品での役割 三影が城之浦邸に到着すると、庭で見覚えのない四十年輩の女性が、咲きほこっているクリーム色のバラの枝を花ばさみで切っていた。
(『青い風景画』)

賢の妻あかりは紅バラの束を両腕に抱えている。華やかなことが好きな彼女は、毎日のように気に入りの花屋に電話して、花束を届けさせ、家中の各部屋に飾るのだった。
(『遮断機の下りる時』)

ミステリーに、女性と薔薇は付き物のようです。
ヒヨドリジョウゴ 採取作品 「猫は知っていた」
ナス科 Solanum lyratum 採取場所 世田谷区内 「箱崎病院」
特  徴 つるで伸び、夏には白い花、秋には赤い実を付ける。 ヒヨドリが赤い実をついばむことからこの名が付く。 しかし、有毒植物でもある。
作品での役割 箱崎病院に引っ越してきた仁木兄妹は、 その日の夕飯を箱崎家の家族と一緒に取ることになった。 なごやかな夕食時間を過ごす中、あまり話に入ってこなかった 長男の英一が仁木雄太郎にこう話しかける。
ヒヨドリジョウゴとは、どんな毒草なんですか?」

事件とはあまり関係のない会話ですが、植物好きの雄太郎を表現するために、作者は花の説明を詳しく記載しています。
フリージヤ 採取作品 「ひなの首」
アヤメ科 Freesia 採取場所 品川 「笹井キヨ宅」離れ
特  徴 南アフリカ原産の花でほのかな香りがします。色も白・黄・赤・ピンク等があります。花言葉はあどけなさ・純潔・無邪気
作品での役割 浅田悦子は以前、娘の鈴子に雛人形を譲ってもらった松田家の長女、雪枝に電話をした。人形の中から謎の文章が書かれた紙切れが出てきたからだ。 雪枝はその紙切れの内容から、隣宅の笹井宅でおこった 殺人事件の話を悦子に話し始めた。 5年前、笹井宅の離れで増川という学生がガス中毒で死んでいたが、その増川の肩に白いフリージヤの花がおかれていた・・・。

いったいその花にはどんな思いがこめられているのか?
フレウム・アルピヌス 採取作品 「猫は知っていた」
イネ科 Phleum alpinum L. 採取場所 世田谷区内 「箱崎病院」
特  徴 学名「フレウム・アルピヌス」という変種は色々な図鑑で探してみましたが、見つからなかったため、おそらくこれであろうというもの載せてみました。もし、どなたかご存知の方は管理人までご連絡ください。

【ミヤマアワガエリ】Phleum alpinum L.
北海道、本州の高山域に生える多年草。
高さは15〜30cm
作品での役割 箱崎病院7号室に引っ越してきた仁木兄妹。

兄はフレウム・アルピヌスとかいう草の変種が植わっている鉢を窓ぎわの戸だなの上へおいた。
ホタルカズラ 採取作品 「虹の立つ村」
ムラサキ科 Lithospermum zollingeri 採取場所 群馬県民宿 「上毛荘」周辺
特  徴 林のへりや山道に生える多年草。全体に硬い毛でざらつく。15〜20cmの高い茎に、青紫色の花をつける。
作品での役割 仁木兄妹と3人の子どもたちはドライブに出かけた。宿泊をしている上毛荘から、山道をおりていくと広い桑畑が見えてくる。そんな時、雄太郎が突然こんなことを言いだした。
「おっ車をとめてくれ。あそこにあったのホタルカズラに似ていたが、ちょっと違うようだ。何だろう。」

雄太郎も、このような山の中に来るとつい子供にかえってしまう。似ている植物とは一体何なのだろう。
ムラサキシキブ 採取作品 「暗い日曜日」
クマツヅラ科 Callicarpa japonica 採取場所 世田谷区内 「南山堂の横の空き地」
特  徴 6〜7月に薄紫色の芳香な小花をたくさんつける。また、秋には3〜4ミリの紫色の実をつける。落葉灌木。
作品での役割 悦子が駅前の商店街へ買い物に行くには、八幡様を横切った方が早い。そこで境内を通り抜けようとすると、ケヤキの木の下で館岡博士の死体を発見する。そして、悦子は館岡の手帖から「紫式部」という文字をみつけるが・・・・。

これも植物が好きでないと思いつかない発想。雄太郎ならではの推理が展開される。
メハジキ 採取作品 「林の中の家」
クチビルバナ科 Leonurus sibiricus 採取場所 S区K町 「水原啓太邸」
特  徴 子供がこの茎をまぶたに貼って、目を開かせて遊んだことから「目弾き」と呼ばれました。乾燥して産前産後にも用いたため「益母草(やくもそう)」とも呼ばれています。
作品での役割 スイラン、ツルニンジン、メハジキ、クルマバハクマ、イワヘゴ・・・。
さえざえとした空気が流れ込んでくる10月のある夜、雄太郎は万年筆でカードに草の名前を書きこんでいた。そこへ一本の電話が・・・。

ここから雄太郎と悦子は事件の謎に挑むのだ。
ヤマトリカブト 採取作品 「猫は知っていた」
採取場所 世田谷区内 「箱崎病院」
特  徴 8〜10月に紫色の花が咲く。
全草が猛毒だが、根の部分が特に強い。
舞楽の冠(鳥兜)に似ているところが、名前の由来。

岡山県の鬼首村では「お庄屋殺し」とよばれているらしい。
(横溝正史『悪魔の手毬唄』より)
作品での役割 「どれ?ああ、この草ですか?」
雄太郎は早速のぞき込んだ。
「これはヤマトリカブトですね。この標本は相当傷んでいてわかりにくいから、必要なら今度僕が作ってあげましょう。」

「病院」に「毒草の標本」。何かがおこりそうな取り合わせです。